036刊行 2026-09-25 ・ 読了約5分

AIと組んだひとりは、何人ぶん作っているのか。

How Many People Is One Maker Working With AI? — Counting 86 Projects in Four Months

手法
種類別の相場とIPAの生産性で換算
規模
86本・245,293行
触れる
前提を動かすと、人数が変わる
結論
作り手32〜69人ぶん。
Abstract

要旨

AI と組んでから、ウェブサイトもアプリも、すぐ作れるようになってしまった。では普通の制作会社・開発会社なら、何人ぶんの仕事なのか。

感覚で答えると盛ってしまうので、手元の記録を数えた。対象は2026年6月から9月までの4か月に作り始めたプロジェクトで、86本あった。これを2つの物差しで人数に直した。1つは、種類ごとに「普通の会社なら何人月かかるか」を当てはめる数え方。もう1つは、書いたコードの行数を、情報処理推進機構(IPA)が公表している開発の生産性で割る数え方である。

結果、種類で数えると作り手32〜69人ぶん、行数で数えると84人ぶんになった。会社として回すなら、営業や総務も含めて60人を超える規模になる。ただしこれは「作った量」であって、「同じ品質の完成品の量」ではない。

作る人は数十人ぶんに増えた。売る人は、ひとりのままだった。

Method

方法

対象
作業フォルダのうち、2026年6月1日〜9月25日に作られたもの86本。フォルダの作成日か、最初の記録(git の commit)の日付で判定した。それ以前からあるプロジェクトでの作業は数えていない。
数え方A
86本を1本ずつ、業務システム・公開データの地図・研究など12種類に分けた。種類ごとに「普通の会社が作ったら1本何人月か」を下限と上限で当てはめ、足し合わせた。1本あたりの人月は筆者の見立てで、外部の出典は無い。
数え方B
手で書くたぐいのファイル(HTML・CSS・JavaScript・Python など)の、空行を除いた行数を数えた。ライブラリ、生成したデータ、3,000行を超えるファイルは除いた。これを IPA の新規開発の生産性(中央値)で割った。
人数へ
人月を4か月で割ると、「4か月のあいだ常に手を動かしている人」の数になる。会社の規模に直すときは、勤務時間のうち案件に使える割合(稼働率)と、営業・総務など間接部門の割合で膨らませた。
数えない
記録の置き場や作業用のフォルダ4本は、中身が成果物ではないので0人月とした。
Result 1

4か月で、86本

まず量そのもの。4か月で作り始めたプロジェクトが86本、全フォルダでの記録(commit)は1,107回あった。

作り始めたプロジェクト86本
記録(commit)1,107回
手で書くたぐいの行24.5万行
作った人1人

それまで月40〜60回前後だった記録が、6月から月200〜450回に増えた。この跳ね方が何によるものかは、記録だけでは切り分けられない。本稿は理由ではなく、量だけを扱う。

Result 2

種類で数えると、作り手32〜69人

86本を12種類に分けて、普通の会社なら何人月かを当てはめた。合計は128〜276人月。4か月で割ると、常に手を動かしている人が32〜69人いる計算になる。

公開データの地図・画面(21本)31.5〜63人月1本1.5〜3人月。PDF や統計から数字を起こし、町ごとの地図にして公開するもの。本数がいちばん多い。
業務システム(大2本・中4本)40〜80人月大は1本12〜24人月、中は4〜8人月。実際に人が毎日使う業務の画面で、ログインやデータの保存まである。
研究・調査(12本)19.5〜45人月論文や DOI まで付けた大きい研究が3本(1本4〜8人月)、中くらいの調査が6本、計算だけで畳んだ小さな調査が3本。
Webサイト・LP・保守(8本)11.5〜24.5人月コーポレートサイトや LP が5本(1本2〜4人月)、保守と制作キットが3本。
業務ツール・試作(7本)7〜14人月客先に触ってもらうための動く試作や、小さな業務ツール。途中で畳んだものも含む。
ゲーム・個人の道具(16本)12.5〜31.5人月声やリズムをミリ秒で測るゲームが3本(1本2〜4人月)。残り13本は家族用の辞典や、健診結果の記録などの小さな道具。
事業検討・研修資料(12本)6〜18人月コードではなく、事業の検討メモや研修の教材一式。コンサルに頼めば費用のかかる仕事なので、1本0.5〜1.5人月で数えた。

いちばん効いているのは業務システムと公開データの地図で、この2つで全体の半分を超える。逆に、本数の多い個人の道具(13本)は1本が小さく、合計への寄与は1割に満たない。

Result 3

行数で数えると、84人

数え方Aは、1本あたりの人月を筆者が置いている。そこで、外に出典のある物差しでも数えた。

IPA の「ソフトウェア開発データ白書 2018-2019」によると、国内の新規開発1,475件(直近6年)から出した生産性の中央値は、1人時あたり4.55行である。1人月を160時間とすると、1人月あたり約728行になる。

対象の86本で、手で書くたぐいのファイルを空行を除いて数えると245,293行あった。728で割ると約337人月、4か月で割ると約84人である。

数え方Aより高く出るのは、筋が通っている。IPA の数字は企業の基幹システムの開発で、要件定義から設計書、試験まで含めた工数である。それに比べて HTML や CSS の1行は軽く、設計書もほとんど書いていない。数え方Bは上限の側、数え方Aが本命と読むのがよい。2つの物差しが同じ桁に並んだことのほうが大事である。

Try it

前提を動かしてみる

1本あたりの人月も、稼働率も、見立てである。つまみを動かすと、その前提での人数が出る。

作り手(数え方A)32〜69人4か月、常に手を動かす人
会社の規模(数え方A)62〜133人稼働率と間接部門で膨らませた
作り手(数え方B)84人245,293行から

初期値は本文の前提。「1本あたりの人月」を0.5倍まで下げても、作り手は16〜35人残る。

Limitations

差し引くべきところ

この数字をそのまま「数十人の会社と同じ」と読むと言い過ぎになる。差し引くところが5つある。

仕上げ
制作会社は試験、設計書、アクセシビリティ、会議、保守の体制にも人を割く。本稿の86本は、そこが薄いか、省いてある。
試作込み
動く試作や、途中で畳んだものも1本に数えている。完成品だけなら本数は減る。
見立て
数え方Aの1本あたりの人月は、筆者の相場感である。外に出典のある数え方Bと同じ桁に並んだことで裏を取ったが、1本ずつの値は検証していない。
頼まれない仕事
半分以上は自分で始めた研究や公開物、家族用の道具で、会社なら受けない仕事である。「作った量」と「売上」は別物である。
控えめな側
逆に、以前からあるプロジェクトでの4か月の作業は数えていない。そちらを足せば数字は上がる。
Conclusion

結論

AI と組んだひとりは、この4か月、普通の会社なら作り手30〜70人ぶんの量を作っていた。

ただし、量が数十倍になっても、それを誰かに届けて対価を受け取る側は、ひとりのままである。作ったものの多くは、まだ誰にも売っていない。作る速さが上がったいま、仕事の量を決めているのは、作る手ではなく、売る・届ける手のほうである。

制作会社の側から見れば、「何人で何か月」という見積もりの前提そのものが揺れている、とも読める。

次の問い:作る量が数十倍になったとき、届く量は何倍になるのか。

※ 一人の記録を数えた事例です。
本稿は筆者ひとりの4か月の記録を数えたもので、一般の開発者や制作会社の生産性を測ったものではありません。1本あたりの人月は筆者の見立て、IPA の数字は企業の基幹システム開発の統計で、どちらも目安です。
References

ネタもと

  • AIPA「ソフトウェア開発データ白書 2018-2019」
    新規開発の SLOC 生産性の中央値 4.55 SLOC/人時(直近6年・1,475件の統計から)。数字は 同白書の紹介資料(PDF) の「生産性の分析」で確かめた。
  • B筆者の作業フォルダの記録(2026年9月25日に集計)
    フォルダの作成日と git の commit 履歴。行数は空行を除き、ライブラリ・生成データ・3,000行超のファイルを除いた。客先の案件を含むため、プロジェクト名と中身は公開しない。
  • C1本あたりの人月(筆者の見立て)
    業務システム大 12〜24/中 4〜8/試作 1〜2、サイト 2〜4、公開データの地図 1.5〜3、研究(大)4〜8、ゲーム 2〜4、小さな道具・資料 0.5〜1.5 人月。