033刊行 2026-09-24 ・ 読了約6分
結婚支援センターは、結婚を増やしたのか。
Can Marriage Statistics See Matchmaking Programs? — A Power Check Before the Analysis
- 分析の前に、測れるかを測った
- 47都道府県 × 12年
- 結論
- この統計では見分けられない。
要旨── 測る前に、測れるかを測った
日本の37の県が、県営の結婚支援センターを置いている。AIのお見合い相手探しを入れた県もある。では、それで結婚は増えたのか。
確かめる材料はある。47都道府県の婚姻件数が、毎年公表されている。センターを置いた県と置いていない県を、置いた年の前後で比べればいい。ただ、分析を走らせる前に1つだけ計算した。この統計で、そもそも効果を見分けられるのか。
結果、見分けられるのは1県あたり年128組の増減からだった。一方、国が公表した成婚報告から見積もると、センターが生んだ結婚は1県あたり年47組。2.7倍足りない。分析をやっても「効果は見つからなかった」としか出ない。そしてそれは、効果が無いという証拠にならない。
「効果なし」と書く前に、秤の目盛りを見ておいた。
方法── 何を、どう調べたか
- 結果
- 都道府県別の婚姻率(人口千人あたり)。厚生労働省「人口動態調査」の統計表から、年次がそろう 2013〜2024年の12年分 × 47都道府県を取った。
- 処置
- 結婚支援センターを置いた年度と、AIマッチングを入れた年度。こども家庭庁の資料に都道府県ごとの一覧がある。期間内に置いたのはセンター・AIとも32県。
- 比べ方
- 県ごとのもともとの違いと、全国共通の年ごとの波(コロナ禍の落ち込みなど)を取り除いたうえで、置いた前後の変化を置いていない県と比べる。経済学で「差の差」と呼ばれる、ごく標準的な方法である。
- ぶれの測り方
- 「置いた年」を県の間でデタラメに入れ替えて、同じ計算を4,000回やり直した。効果が無くても偶然これくらいは動く、という幅がそこから出る。
- 見分けの下限
- その幅から、本当に効果があったとき8割の確率で気づける最小の効果を出した。統計の世界では「検出力」の計算と呼ぶ。
期待される効果は、年47組── 県の結婚の0.63%
まず、見つけたい相手の大きさを決める。これを先に決めないと、何が「小さすぎて見えない」のかも言えない。
いちばん大きく見積もった、というのが大事なところだ。センターで出会って結婚した人の多くは、センターが無くても別の場所で誰かと結婚したかもしれない。本当の効果は、増えた分だけなので、0.63%より小さいはずである。
見分けられるのは、128組から── 秤の目盛りが粗すぎた
県の婚姻率は、センターと関係なく年ごとに揺れる。その揺れを取り除いたあとでも、1県あたり年に約2.3%は理由なく上下する。この揺れの中から0.63%を拾えるか。
推定値を先に見ていたら、きっとこう書いていた。「センターの効果は統計的に有意でなかった」「AIはむしろマイナスだった」。どちらも嘘ではないが、どちらも何も言っていない。秤が粗すぎて、どちらにも振れる状態だったからだ。
何年分あれば、足りるのか── つまみを動かしてほしい
年数を増やせば、揺れは平均されて目盛りは細かくなる。では何年分のデータがあれば、年47組が見えるのか。下のつまみで年数を変えてみてほしい。
成婚報告をそのまま信じると、約29年分が要る。報告漏れで本当は2倍あったとしても、約16年分。この統計表で年次がそろうのは2013年からなので、いちばん早くて2028年分まで待つことになる。しかもそれは「増えた分」ではなく「センターで結婚した全員」を効果と数えた、甘い見積もりの場合である。
結論── 「効果なし」とは、言えない
都道府県の婚姻統計では、結婚支援センターの効果は見分けられない。効果が無いのではなく、あっても見えない大きさだった。
言えることは1つだけある。「1県あたり年に数百組を増やすほどの効果は無い」。センターの推定値の95%の幅は、上限が+1.36%(年102組)だった。それより大きな効果があれば、さすがに見えていたはずだ。
逆に、言えないことははっきりしている。「効果が無かった」とは言えない。「AIで結婚が減った」とも言えない。そもそも因果の話もできない。センターを置いた県と置いていない県は、東京や大阪が置いていないことからも分かるように、もともと違う県である。
そして、これはこの研究だけの話ではない。分母が大きすぎる物差しを使うと、どんな本物の効果も埋もれる。県全体の結婚は年に数千組、センターが動かすのは数十組。自治体の施策の多くが、同じ形をしている。
「見つからなかった」と「無かった」は、別の文である。
では、どこなら測れるのか── 分母の小さい場所へ
県の結婚全体という大きな分母をやめて、センターの中の数字を見ればいい。
登録した人のうち何人がお見合いまで進み、何人が交際し、何人が成婚したか。この段階ごとの数字なら、分母は数千組ではなく数百人になる。1万分の1の世界が、100分の1の世界に変わる。たとえば福岡県のセンターは2023年度に置かれたばかりで、立ち上がりの数字がまだ若い。
もう1つの道は、比べる相手を作ることだ。申し込みが多くて抽選になった婚活イベントなら、当たった人と外れた人は、くじ以外に違いが無い。AIの相手探しで、見せる候補の出し方を無作為に変えた記録があれば、それも使える。効果を測りたいなら、制度を作る段階で、比べられる形にしておく必要がある。
「見つからなかった」を、先に止める研究です。
自由研究は、allfesta の研究部門です。本稿は、結婚支援の効果を調べる分析を走らせる前に、その分析で答えが出るかを計算したものです。データの取得・計算・言語化は AI が行い、研究部が検証しています。計算は Python の標準ライブラリだけで書いてあり、同じ統計表から同じ数字が再現できます。
ネタもと── 一次資料・前提
- A政府統計の総合窓口(e-Stat)「人口動態調査」上巻 都道府県別にみた年次別婚姻件数・婚姻率(統計表 0003411835)
47都道府県 × 2013〜2024年の婚姻率。本稿の結果の指標。これを加工して作成した。 - Bこども家庭庁「令和6年度 行政事業レビュー公開プロセス 説明資料 地域少子化対策強化事業」(2024年6月7日)
都道府県ごとの結婚支援センター・AIマッチングの設置年度(令和5年度末時点)と、成婚報告数 1,748組。成婚報告が少なく出ている可能性は、資料自身が注記している。 - CBertrand, M., Duflo, E., & Mullainathan, S. (2004). How Much Should We Trust Differences-in-Differences Estimates? Quarterly Journal of Economics.
年をまたいだ相関があると、差の差の誤差は小さく出すぎる。本稿が「置いた年を入れ替える」方法で誤差を測った理由。 - D検出の下限の計算
入れ替え4,000回で出した標準誤差 × 2.80(両側5%・検出力80%)。乱数の種は 20260918。